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東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)8号 判決 1959年4月14日

原告 小池酸素工業株式会社

被告 特許庁長官

主文

昭和三十年抗告審判第一、八〇八号事件について、特許庁が昭和三十三年二月十七日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は昭和二十九年四月十四日「瓦斯切断火口」について特許を出願したところ(昭和十九年特許願第七、四八五号事件)、昭和三十年七月十六日拒絶査定を受けたので、同年八月十八日右拒絶査定に対し抗告審判を請求したが(昭和三十年抗告審判第一、八〇八号事件)、特許庁は、昭和三十三年二月十七日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は、同年三月四日原告に送達された。

二、審決は、特許第一二六、六八一号「中空鋼製造方法」の明細書を引用し、原告の出願にかかる発明は、公知事実を、瓦斯切断用の火口に応用したに過ぎないもので、このようなことは引用例から容易になし得る程度のものであつて、特許法第一条に規定する特許要件を具備しないとしている。

三、しかしながら審決は、次の理由によつて違法であつて、取り消されるべきものである。

(一)  審決が引用した前記特許発明は、「中空鋼を、製造すべき素材の壁と金属心杆との間に酸化クロム粉の薄層を介入せしめて圧延し、後金属心杆を引き抜くことを特徴とする中空鋼の製造方法」であつて、鋼管を製造するにあたり、鋼塊に孔を穿つて、これに心杆を挿通し、その後の過程において、(a)素材たる鋼塊を圧延し、(b)該圧延は熱間において行うことを製造手段とするものである。そしてこのことは、明細書における発明の詳細な説明の項の冒頭に、「中空鋼は中心に穿孔した鋼塊又は鋼片を、その穿孔に心材を填充して熱間において圧延し、冷却後云々」と記載し、またその実施例の説明に、「これを加熱し、摂氏一〇〇〇度乃至一二〇〇度の範囲において圧延し云々」と記載しているのに徴しても明白である。

これに対し本件出願の発明は、「火口材に、比較的大なる孔径の真直なる切断酸素孔及び予備瓦斯孔を穿設し、これらの孔中に潤滑剤例えばシリコーン油を充填した後、針金例えばピアノ線を挿入し、スエージングマシンによりて火口材を搾り次にピアノ線を抜き取つて製作したる瓦斯切断火口」を要旨とするもので、その製造手段の過程においては、素材に直径の比較的大きな孔(この孔の直径を大きく穿つことは、後に(二)において述べるように、重大な意義がある。)の真直な切断酸素孔及び予熱瓦斯孔を穿つて、これに心線を挿通し、その後の過程において、(A)外部から素材(火口材)を搾つて所定の成型を行う、(B)この搾りは熱間ではなく、冷間においてスエージングマシンにより行うものである。

従つて両者を比較すると、前者における(a)と後者における(A)との関係については、(a)が「圧延」なる手段を採るに対し(A)では「搾り」なる手段を採択する点、手段において両者間に著しい相違がある。すなわち(a)における「圧延」は、鋼塊を「延伸」させるもので、その目的は鋼塊を管状に長く引き延すことにある。これに対し(A)における「搾り」は素材を延伸することを目的とするものではなく、あらかじめ大きく穿たれた切断酸素孔及び予熱瓦斯孔を、心線の大さまでに圧縮すなわち搾るものである。そして「圧延」と「搾り」(普通「絞り」と称せられる。)とは、工業上全く性質を異にした手段である。「圧延」とは塊又は片をその延伸性を利用して、板状、棒状又は種々の形状の長物に引き伸すことであり、きわめて大きな延伸率を望む場合等にはは、必然的に熱間で行われる。引用特許発明における「圧延」はこれに該当する。これに反して「絞り」は、素材に強圧を加えて、特定の形態に変形し賦型することを目的として行われるものであり、本質的には冷間作業である。従つて両者は素材に強圧を加える点においては異らないが、工業的に利用する場合、両者は全く異なるものである。しかるに審決は、この点について、「素材に穿設した孔壁と金属心杆との間に、充填剤の薄層を介入させ、圧延した後に金属心杆を引き抜いて、中空体を製造する点において、両者軌を一にし」と説示し、本件出願発明における「搾り」と、引例における「圧延」との重大な差異についての審理を為すことなく、漫然両者軌を一にするものであると説示した点は、審理を遺脱したものというの外ない。ことに本件出願発明では、上記の「絞り」を冷間で能率的に量産的に、かつ高精度で行うために、スエージング法によることを明確にしているにかかわらず、審決は、これに関する何等の審理をしていない。

(二)  引用の特許明細書に記載したものは、素材たる鋼塊に孔を穿ち、これに心杆を挿通せしめること前述のとおりであるが、その孔と心杆との間隙は、粉状の仲介物を薄い層の状態に充填し得る程度の極めて僅少なものであること、明細書における「酸化クロム粉の薄層」なる記載及び粉状の仲介物を介入せしめる目的から、判断して疑う余地がない。しかるに本件出願の発明は、素材に孔を穿つこと及びその孔に心線を挿通せしめる点においては、引用のものと同様であるが、その孔は、「比較的大きな孔」であることを要件とし、しかもこれが後述のような特殊の作用効果を有する点において、引用のものにおける孔とは、全く性質を異にするものである。

元来瓦斯切断用の火口は、孔を通過する瓦斯気流に対し極めて少ない流れの抵抗のもとに、しかも正確な形状で噴出せしめるものであることを以て、重要な要件としているが、この要件を満足せしめるためには、孔の内壁面が可及的平滑であること、孔径が正確であること及び孔の貫通する方向が、所定のとおり正確であることを必要とする。従来行われた製造方法によると、素材として採択されるものが粘り気の極めて強い銅材であること、このため穿孔の直径が極めて小さい上に、孔の長さが長いこと等のために、穿孔には特殊の技術と熟練を必要とし、時間的にも労力的にも、かつまた経済的にも、徒費の頗る多い欠陥がある。しかるに、本件出願の発明は、孔の最終的の所要仕上り寸法よりも、技術上遥かに穿孔の容易な程度に直径の大きな孔を素材に穿つことによつて、従来の方法における前記穿孔技術上の困難を解消する。この場合その孔の内壁面は粗であつても、後処理の搾りにおいて平滑化されるので何等差支えない。次いでその孔に所定の仕上り寸法の孔と同径の心線を挿通した後、素材を搾ることによつて、その大きな孔を心線にまで、すなわち最終的仕上り寸法にまで縮小せしめるとともに、孔の内壁面に心線との密触により、心線の外周面と同様の平滑さを与え、これによつて、前述のような素材の材質及び穿孔技術上からの困難を容易に解消し得るものである。すなわち本件出願発明において、素材に最終的仕上り寸法よりも大きな孔を穿つことは、極めて大きな作用効果をもたらすものである。しかるに審決は、かかる孔について何等言及するところがなく、これに関する審理は尽されていない。

(三)  本件出願の発明は、素材に穿つた切断酸素孔及び予熱瓦斯孔にそれぞれ挿通した心線を、火口先端の外部一点に集中するように素材を搾り、これにより、それらのすべての孔の中心線を、該一点に集中させるようにして、優秀な所期の火口を量産的に得ようとするものである。従来の火口製作方法によると、前述したように素材に予定どおりの穿孔をなすこと自体がすでに大きな困難を伴うものである。いわんやそれらの孔の中心線のすべてが、一点に集中するように穿孔することの困難さは、推して知るべきである。本件出願の発明は、この困難を解消したもので、引例中なんらこれに該当する記載のない特別の手段によるものである。しかるに審決は、本件出願発明におけるかかる特殊の手段についての審理が全くなされていない。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対して、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の各事実は、これを認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

(一)  審決が引用した特許第一二六六八一号明細書記載の特許発明は、鋼片の中心に穿つた穿孔に、心材を挿入して、熱間において圧延して中空孔を製作する場合に、金属心杆の表面に填充材である酸化「クロム」粉の被覆を施すか、あるいは中空鋼を製造する素材の内孔に、金属心杆を挿入した後、孔壁との間隙を酸化「クロム」粉を以て填充して圧延した後、心杆を引抜く方法であつて、使用する酸化「クロム」粉は、心杆を抜き易くするためである。

これに対し、本件出願発明は、火口材に比較的大きい孔径の真直な切断素孔及び予熱瓦斯孔を穿設し、これら孔中に、潤滑剤例えばシリコーン油を充填した後、針金例えばピアノ線を挿入し、スエージングマシンによつて火口材を搾り、次にピアノ線を抜き取つて製作した瓦斯切断口であるが、発明自体は物ではなく、実体は製造方法にあると認定せざるを得ない。

そこでこの両者を比較すると、中空金属体を素材から製造するにあたり、素材に穿設した孔の壁と金属心杆との間に、充填剤の薄層を介入させ、圧延した後に金属心杆を引き抜いて、中空金属体を製造する点において、両者軌を一にする。次に両者の差異として、本件発明は瓦斯切断火口を製造するため、酸素瓦斯通過孔と予熱瓦斯孔とを穿設し、これら孔中に潤滑油例えばシリコーン油を充填した後、針金を挿入する点であるけれども、本件出願の瓦斯切断火口予熱瓦斯孔を備えていることは、原告はもちろんのこと、熔接業界では周知のことであるから、審決においては、単に使用目的により云々」と記載しただけであり、瓦斯切断火口としての材料が、銅を使用することは特に例示せずして「金属材料を変えること」と表現したものであつて、審理を尽さなかつたとの原告の主張は、当を得ていない。

次に潤滑剤を充填することについても、本件出願のものは、例えばシリコーン油を使用するものであつて、必ずしもこれに限定せられないから、その使用目的すなわち圧延後挿入した心杆を抜き易くするために用いるものである以上、引用のものの酸化クロム粉とは目的が同一であるばかりでなく潤滑油の材料として、シリコーン油が周知の材料であつて、両者の差異を特に認めることはできない。また原告は「圧延」と「搾り」との差異について詳細に述べているが、使用する材料の硬度が高い場合には、熱間圧延を行うことが多いが、必ずしも圧延は熱間ばかりでなく、冷間圧延も行われていることは、業界では極めて周知のことであるから、使用する材料によつては、冷間で圧延を行うことは、容易になし得る程度のものといわなくてはならない。更に原告は、本件出願にかかる発明においては、スエージングマシンによつて搾るものであると称しているが、最終生成物の形状によつては、圧延の一種と認められる搾り操作は、必要に応じ採用することであり、このような場合に使用する機械として、スエージングマシンは何等新規とするに足りない。

(二)  引用明細書においては、心杆を挿入する鋼片に穿設した孔の径は、心杆より大なることは当然のことであつて、圧延後の内径を最終仕上寸法になすために、圧延の程度を適度に選定することは、当然のことといわなくてはならない。成型物の孔の内壁が、平滑であること及び孔径が正確であることは引用例中の記載より容易に察知し得られる程度のもので、特に新規な効果とは認められない。特に(一)において述べたように素材として銅材を使用する場合には、当然に生ずる効果に過ぎない。

(三)  本件出願の発明は、(一)で述べたように、素材に穿設した孔中に挿入した針金を、素材を搾つた後に抜き取ることによつて孔のある素材すなわち火口材を製作することであつて、該針金(心線)を火口先端の外部の一点に集中するように搾ることについては、少なくとも特許請求の範囲の項中には何等記載されていない。仮りにそれが本件出願の発明の構成に缺くことのできない条件であるならば、この条件を特許請求の範囲に記載することは当然のことであつて、このような特殊の手段について、特許請求の範囲に記載していない以上、必要条件とは認めらない。その上抗告審判請求理由中にも何等理由の説明がないから、この点を審理しなかつただけであつて、これを以て審理不尽であると称する原告の主張は、当を得ていない。

第四証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、よつて先ず、原告の出願にかかる本件発明の要旨について判断するに、その成立に争のない甲第一号証によれば、原告は右出願にあたり本件「発明の名称」を「瓦斯切断火口」とし、明細書中「特許請求の範囲」及び「発明の詳細を説明」の項にも、これに応じた記載をしているが、右明細書全体の趣旨に徴すれば、原告は、ここに記載された「瓦斯切断火口」その物が、従来公知となつている同種の「瓦斯切断火口」に比較して新規なものとなすのではなく、これを製造する方法が、新規な工業的発明なりとして特許を請求しているものと解するを相当とし、従つて右発明の要旨は、「火口材に比較的大きな孔径の真直ぐな切断酸素孔及び予熱瓦斯孔を穿設しこれらの孔の中に、潤滑材例えばシリコーン油を充填した後ピアノ線を挿入し、スエージングマシンによつて、火口材を搾り、次にピアノ線を抜き取ることを特徴とする瓦斯切断火口の製造方法」にあるものと認定するを相当とする。そして該発明の目的は、右明細書中「発明の詳細な説明」の項に記載されているように、「従来瓦斯切断火口の製作に際し、火口材に切断酸素孔及び予熱瓦斯孔を穿つ場合、これらの孔は内径が極めて小なるため、ドリルは屡々破損し、かつこれら孔の内面には多数の傷痕が残留し、もつて瓦斯の流出に好ましからざる影響を与えた。しかるに本発明は比較的大きな直径の切断酸素孔及び予熱瓦斯孔を穿つことにより、ドリルの破損を防止し得るとともに、スエージング作業後これらの孔からピアノ線を抜き取るに際し、ピアノ線の周囲に油の皮膜が保有されることにより、孔の周りを頗る滑かならしめて、瓦斯の流出を良好ならしめ得る」点にあり、右目的及び明細書の記載に徴すれば、前記要旨に示した「比較的大きな直径の切断酸素孔及び予熱孔」というのは、「仕上りの製品におけるこれらの孔の直径に比較して可成りの大きさの直径の孔」を意味し、また「スエージングマシンによつて火口材を搾る」というのは、この操作によつて火口材を所要の形状に成型するとともに、あらかじめこれに穿つた前述の「比較的大きな直径の孔」を、これに挿入した、製品の仕上りの孔径とほゞ等しい大きさのピアノ線の孔径にまで搾ることを意味するものと解せられる。

次ぎに、その成立に争のない乙第一号証によれば、審決が引用した特許第一二六六八一号明細書(昭和十三年六月十五日公告)には、「中空鋼を製造すべき素材の壁と金属心杆との間に酸化クロム粉の薄層を介入せしめて圧延した後、金属心杆を引き抜くことを特徴とする中空鋼管の製造方法」が記載され、該発明の目的は、右明細中「発明の詳細な説明」の項に記載されたように、「中空鋼は、中心に穿孔した鋼塊又は鋼片を、その穿孔に心材を填充して熱間において圧延し、冷却後心材を除去して製造するものであるが、心材として金属杆を使用する場合に該金属杆が炭素鋼のようなものからなるときは、冷却後中空鋼に密着して抜くことを得ず、抜き易い金属心杆は、高級な特殊鋼よりなり高価なるを免れず。(中略)金属心杆と孔壁との間に填充材を介入させることは、英国特許第三七三一六七号において公知であるけれども、これらの場合に普通使用せらられるは、珪石粉、マグネサイト粉、タルク等であるが、(中略)いずれも金層心杆の引抜きが容易でない欠点がある。本発明は、金属心杆の表面に酸化クロム粉の被覆を施すか、あるいは中空鋼を製造すべき素材の内孔に、金属心杆を挿入した後、孔壁との空隙を、酸化クロム粉を以て填充するが如き方法を以て、金属心杆と孔壁との間に、酸化クロム粉の薄層を介入せして圧延し、後心杆を引抜く」ことを容易ならしめる点にあり、右目的及び明細書の記載に徴すれば、中空鋼を製造すべき素材の孔径は、これに挿入する金属心杆の直径に比較して僅かに大きく(素材の孔壁と金属心杆との間に介入せしめる酸化クロム粉の薄層は、実施例によれば心杆の表面には、酸化クロムの微粉を水で解いたものを〇・〇三九吋に塗り乾燥し皮膜を形成せしめた後これを丸鋼の中心に穿つた孔に入れるとしている。)、また圧延操作によつて、単に素材である鋼塊鋼片が圧延されるばかりでなく、孔中に挿入した金属心杆もともに圧延され、当初の直径よりも可成り小さなもの(実施例によれば、大約五分の一程度に縮小する。)となることが認められる。

三、以上認定したところに従い、原告の本件出願にかかる発明と、審決が引用した前記特許明細書に記載されたところのものとを比較するに、両者は、先ず素材金属に穿孔し、この孔に心材(心杆)たる金属線または金属杆を挿入し、次いで素材を所要の形状に搾るか又は圧延した後、心材を引き抜くことによつて所要の製品を製造する方法にかかり、なお素材の孔と心材との間には、心材の引抜きを容易にするため、潤滑剤のたぐいを介在せしめるという概念的な思想においては一致している。しかしながら、これを実現する具体的な内容、方法において、(1)前者の心材たるピアノ線等の径は、製品における孔(切断酸素孔及び予熱孔)の仕上りの径とほゞ同じ大きさであつて、当初素材に穿つた大径の孔は、搾操作の結果、右心材の径にまで縮小されるけれども、心材たるピアノ線等の径は、搾操作によつては何等影響されるところがない。これに反し後者の心材たる金属杆の径は、圧延操作によつて素材とともに圧延されて縮小される。(2)また後者に記載された操作の作用である「圧延」を広義に解釈すれば、被告代理人のいうように前者における「スエージングマシンによる搾作用用」をも含むものであるが、その成立に争のない甲第三号証の一ないし四(日本機械学会発行、機械工学便覧)によれば、圧延作業は、「特殊の金属或いは特殊の場合を除き、材料を高温に加熱して、可鍛性を増し、圧延動力を減じ変形を容易ならしめる」ものであることが認められるばかりでなく、乙第一号証によれば、後者における圧延作用は、専ら「熱間(実施によれば摂氏一、〇〇〇度ないし一、二〇〇度の範囲における圧延」をいうものであることは明白であつて、前者における「スエージングマシンによる搾り作用」が専ら冷間作業であるのと異る。

そしてこれら具体的の内容、方法に見られる相違点は、いずれも先に認定した両発明のそれぞれ相異なる目的を実現するために不可缺の要素をなし、一を以て他に代替適用することができるものとは到底解されない。

してみれば審決が、「本願方法は引用公知事実を瓦斯切断用の火口に応用したに過ぎないものであつて、このようなことは引用例より容易になし得る程度のもので特許法第一条に規定する特許要件を具備しないもの」として、原告の抗告審判の請求が成り立たないとしたのは違法であつて取消を免れない。

よつて原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

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